2014.01.30
賃貸借の当事者の変更 その11(賃料と相続)[相続]
1.収益物件を相続した共同相続人は、相続発生時からの賃料を、
各相続人の相続分に応じて「確定的に」取得します(最一小判
平成17年9月8日判タ1195号100頁)。
「確定的に」取得するとは、後に相続分と異なる割合の遺産
分割協議をした場合でも、遺産分割協議までに取得した賃料
を返還する必要がないということです。
2.また、収益物件の特定遺贈を受けた人は、相続発生時からの
賃料債権を取得します(民法992条)。
3(1)収益物件の特定遺贈に対し、遺留分減殺請求がされた場合、
特定遺贈を受けた人は、遺留分減殺請求日以降の賃料を返還
しなければなりません(民法1036条)。
(2)一方、判例は、遺留分減殺請求によって、遺贈の効果は
遡及的に失効する(相続開始時から遺贈がなかったもの)
としています(最一小判平成4年11月16日判タ803号61頁
以下「平成4年判例」)。
(3)平成4年判例は、法人への遺贈の際、遺贈者に譲渡所得税
を課す所得税法59条1項1号の適用を巡る事案の判例ですの
で、その射程範囲が問題となります。
仮に上記遡及効が一般事案に当てはまるとすれば、収益物件
の特定遺贈を受けた人は、遺留分減殺請求によって、相続開始
時から賃料債権を取得していないことになるため、相続時からの
賃料を返還する必要がありそうです。
(4)平成4年判例と民法1036条の関係をどのように考えるのかが
問題となるようにも思われますが、平成4年判例及びその他の
判例で、この点について述べた記載は見つけられませんでした。
4(1)また、平成4年判例は、遺贈を受けた人が価額弁償(現物返還
の代わりに価額を支払うこと)をした場合、結局、当初の遺贈時に
遺贈を受けたこととすると判示しています。
そうすると、上記3(1)により遺留分権利者が賃料の返還を受け
ていた場合、価額賠償によって当初から賃料を受け取る権利がな
かったこととなるため、賃料は不当利得となり、遺贈を受けた人か
ら返還請求されることになりそうです。
(2)この価額弁償の弁償額は、現物に代わる価額です。
判例によると、弁償額は、現実に弁償する時を基準時として
算定されます(最二小判昭和51年8月30日民集30巻7号
768頁)。
そうすると、遺留分減殺請求日以降、現実に弁償する日までの
果実は、金銭に評価して弁済額に含むことになりますので、賃料
も弁償額算定の考慮対象となると考えることもできます。
5(1)結局、遺贈に対する遺留分減殺請求時の価額弁償の場合も、
1の遺産分割の場合と同じように、遺留分減殺請求時から現実に
価額弁償を受ける時までの賃料は、遺留分権利者が共有持分に
応じて取得できるということになりそうです。
(2)そうすると、賃料を誰がどれだけ取得するかということに関して、
1記載の遺産分割協議の場合と、4記載の遺贈に対する遺留分
減殺請求(価額賠償)の場合に、「差」?がないようにも思います。