その他

2021.10.25

弁護修習感想文(2021年6月24日)

1 はじめに

私は、5月6日から6月24日まで、北薗法律事務所と同じビルに事務所を置いている別の法律事務所で弁護修習をさせていただいていた者です。修習先事務所のボス弁が北薗先生の事務所でイソ弁をしていた縁もあるとのことで、この度、北薗先生に法文書等の起案や出張業務への立ち会いをさせていただきました。

 

2 法文書等の起案について

約1か月半の弁護修習期間を通じて、北薗先生からは(軽いものも含めて)以下のような5件の起案を頂きました。

 

⑴ 特別縁故者に対する相続財産分与に関する相続財産管理人意見書起案

同じビルの法律事務所での弁護修習初日ということで、指導担当の先生と共にご挨拶に伺ったところ、早速丁度いい検討課題があるとのことで、この起案をいただきました。

 

相続財産管理人とは、故人の相続人が不在であったり、行方不明であったり、相続人全員が相続放棄をしていたりする場合に、利害関係者等が家庭裁判所へ申し立てることで選任される、遺産清算業務の担当者のことです。公平な清算業務執行を期待して、弁護士が選任されることが多くなっています。

 

課題の内容は、故人の生前に近親交際を行うとともに、療養看護支援を行ってきた2人の方が、「特別縁故者」として相続財産の分与(民法958条の3)を申し立てている場面で、清算業務を通じて故人の関係者と連絡を多くとっている相続財産管理人として、家庭裁判所に提出する意見書を起案し、それに関連して、申立人に補充聴取すべき事項や、相続財産分与後の手続進行の検討も行うというものでした。

 

正直に話せば、実務修習に先行して実施される導入修習において、司法研修所の民事弁護教官から、「個別の訴訟提出主張書面(訴状や準備書面等)の書き方までは導入修習では教示できていないので、そのことを指導担当の先生には抗弁として提出しても構いませんよ」と冗談交じりに送り出していただいていたので、内心「主張書面どころの騒ぎではないものがいきなり飛んできたな」と動揺していました。しかし、ロースクールやそこでのエクスターンシップ等で実務家の方々から様々な話を聞くことを通じて、法曹実務は未知の問題と向き合う毎日だろうと覚悟はできていたので、不勉強によりあまり検討したことのない課題ではありましたが、指導担当の先生から教えていただいた実務書も参照しつつ、一から調べて起案を行いました。

 

起案にあたっては、分与申立書面に記載された様々な事実を、民法の条文で明示された「血縁関係」や「療養看護に努めた」といった考慮要素や、実務上重視されている考慮要素ごとに整理し、申立人の代理人とは異なる中立の立場から、申立人ごとに財産分与を受けるべき者かどうかについて法的な評価を記載するように努めました。また、一部分与を相当と認める場合にどこまでの財産を分与すべきかについて、間違いが許されるのは修習生の今だけだろうという思いもあり、法定相続分を参考に具体的な分与相当額についても意見を記載してみました。

 

講評においては、申立人と故人(被相続人)の間の人的関係の把握に甘い部分があったこと等について指摘をいただきましたが、「最低限落第にならないためのポイントは押さえられている」との趣旨と思われるお茶目なコメントもいただけました(但し私の行き過ぎた楽観的解釈の可能性はあります)。自身が記載した意見よりもずっと多くの分与が実務上認められていること等についてご教示頂いただくとともに、北薗先生自身が起案した同種の別事件の意見書も閲覧させていただけました。また、自身が申立人側の代理人になった場合も視野に入れて、どういった事情を記載すべきかについても学習していくとよいとのアドバイスもいただけました。

 

⑵ 破産会社の管財人としての執行供託書起案

続いて頂いた課題は、破産会社に従事していた労働者の複数の債権者が未払賃金を二重に差し押さえていた場面で、第三債務者となる破産会社の管財人として執行供託書を起案するとともに、必要になる添付書類や、差押債権者らが配当を受けるまでの手続の流れを整理するといったものでした。

 

貸与していただいた限られた資料の中から、法務局のホームページに掲載されている各種書式のうちいずれを使うべき場面なのかを慎重に検討するとともに、すべての記載欄を埋めるために必要な情報に不足しているものはないか、そういった情報をどのようにして調査するか等、身をもって知ることができました。ロースクール等では学ぶ機会のほとんど無い供託実務についても学ばせていただくことができました。

 

⑶ 土地売買契約書の地上建物取壊特約条項起案

一般的な土地売買契約書のひな型には用意されていない、地上建物の取り壊しを買主の負担で行う旨の特約条項を起案する課題をいただきました。

 

⑷ 登記抹消登記手続請求の訴状起案

 

⑸ 建物競売の買受人から連絡書を受け取った賃借人に対する助言内容検討

建物競売の買受人から6か月後の部屋の明渡し又は再賃貸契約交渉を求める連絡書を受け取った賃借人にどのような助言をすべきか検討する課題をいただきました。

 

6か月の明渡猶予期間が設定されていることから、賃借権の対抗を受けない抵当権の実行による競売だろうと推認し、競売による賃借権の消除(民事執行法59条2項)、明渡猶予制度(民法395条)、引渡命令(民事執行法83条)に関する説明を中心に、助言すべき事項を整理しました。抵当権と賃借権の優劣に関する事実関係(抵当権設定登記と賃借建物の明渡の先後)を買受人と賃借人がそれぞれどのように確認できるのかについても検討するなど、この課題では、ロースクールでの民事執行法学習と民法の短答試験対策で得た知識をしっかりと活かすことができました。

 

3 出張業務への立会いについて

⑴ 不動産換価任意売却の決済への立会い

農地の換価任意売却の決済手続に同席させていただけるということで、事前に売買契約書を閲覧させてもらうとともに、決済当日に行われる売買以外の法律行為について検討することになりました。

 

司法書士との間で所有権移転登記手続の委任が売買契約両当事者との間で締結され、双方代理の例外となる「債務の履行」として許容されること(民法108条)、売買代金を原資に抵当権の被担保債権の弁済等を行い、抵当権の抹消登記手続についても抵当権者と司法書士の間で委任契約が締結されること、買主が資金融資を受ける場合には更に抵当権設定登記の委任も発生しうること等には思いが至っていませんでした。農地法上の処分許可申請手続については、司法書士ではなく、行政書士の協力が必要になることもご教示いただきました。

 

決済当日は、信用金庫の応接室に北薗先生の他、買主、司法書士、不動産仲介業者、抵当権者が一堂に会し、不動産仲介業者の方が主導して迅速に振込依頼書、委任契約書、領収証等が取り交わされ、署名・押印がされていました。事前に何が行われるか確認していた意味がよくわかりました。

 

⑵ 公正証書遺言検索への立会い

公証人役場の見学も兼ねて、公正証書遺言の検索にも同行させていただけました。通常は、被相続人の死後に相続人やその代理人が行うのですが、相続人がいない場合(相続財産管理人)でも、遺言がある場合にはそれに従った処理が必要になるため、その存否を確認するために検索システムを利用するそうです。近時の相続法改正で自筆証書遺言についても法務局での保管が可能になっており、場合によってはそちらの確認も必要になってくるようです。帰り際に裁判所の執行官室にも立ち寄り、執行官の仕事についても軽く質問をいただきました。

 

4 おわりに

1か月半ほどの短い期間ではありましたが、大変お世話になりました。直接の配属先事務所ではないにもかかわらず、本当に沢山の貴重な経験をさせていただき、ありがとうございました。

 

弁護士業務の幅広さや関連士業との繋がり、実務における裏付け調査の重要性等を、身をもって体感し、日々の職務に全力で取り組む中で積み重ねた知識・経験の量が弁護士の能力を大きく左右するということも深く実感できた気がします。ここでの経験も糧にして、未知の問題を恐れず、1歩1歩着実に知識・経験を増やしていけるよう精進していこうと思います。

 

(コメント)2021.6.29 北薗

1 小職のHPに掲載するという観点から、少し、削除させてもらいました。

2 司法試験受験生の減少に伴う「質」の話がありますが、私の周りの昨年、今年の修習生を見る限り、そのような懸念はないと感じています。

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