弁護士北薗のBlog

2018.09.27

選択型実務修習 家事事件(相続)講義

1 選択型実務修習(修習生に向けた弁護実務の講義)の家事事件(相続)講義を担当しました。

相続事件を取り扱うにつき重要となるいくつかのポイントについて、事前に出席者ごとにテーマ別の課題を出し解答を求めていました。講義では、解答へのコメントと補足説明を行いました。

2 「特別受益(相続人が受けた生前贈与や遺贈)」と「寄与分(被相続人の財産維持等への貢献)」がテーマの課題に関しては、講義時間の関係もあり、実務の本を紹介し、本の目次を読んで知らないと思う論点を勉強しておくように、という程度にとどめました。

3(1)「使途不明金(被相続人の財産からの不明な支出)」をテーマにした課題について、当該課題担当の修習生は、支出を『不法行為(故意や過失で相手に損害を与えること)』とする法的構成のみ検討していました。

そこで、消滅時効を示唆するように事案を変更して法的構成の再考を求めましたが、『不当利得(法律上の原因なく利益を受けること)』との解答が得られませんでした(請求権の消滅時効は、不法行為とすれば3年、不当利得とすれば10年。)。

(2)実務家は、生の事実から民法に関する要件事実(法律効果発生に必要な具体的事実)を拾うことができなければなりません。

当該課題は、「遺産分割」をテーマにした課題の前提問題であったので、修習生を救済する設問として、

①相続財産ではなく固有財産(被相続人への相続人の名義貸し等)が争点となる場合における解決方法(「請求の趣旨(求める判決の内容)」はどうなるか。)

②遺産分割協議書に全ての相続人の実印は押印されているが、一部の相続人の印鑑証明書が得られない場合にどうするか

を聞いてみましたが、①②ともに解答が得られませんでした。

4 相続財産でなく固有財産であった場合の追加設問(上記3(2)①)は、他の修習生への設問として、被相続人死亡前に売買がなされていながら所有権移転登記が未了であった場合の設問がありましたので、同設問を応用して解答すれば足りましたが、応用問題だという発想がなされなかったようです。

5(1)印鑑証明書が得られない場合の追加設問(上記3(2)②)は、印鑑証明書の提出を拒む相続人を相手に訴えを提起し、その勝訴判決と遺産分割協議書をもって単独で登記申請を可能とする方法(遺産分割協議書の真否確認の訴え)を答えて欲しい問題でした。同訴えは、家庭裁判所で行う遺産分割調停等と異なり、地方裁判所に提起するものです。

(2)実務経験上、遺産分割が成立しているか否かは、ア)相手方に相続分(例えば、相続人が被相続人の子3人のみの場合、各人3分の1)があることを前提に(相続財産全額の3分の1の相続分の金額を出発点として)、減額の交渉をしていくか、イ)相手方の取得分が無いことを前提に(0(ゼロ)円を出発点として)、解決のためにいくらかを支払うこととするか(増額の交渉をしていくか)という前提の違いが、大きく影響しています。

(3)先日取り扱った相続事案(相続財産の一部が所有権移転登記未了)は、他の価値ある不動産の相続登記が完了していたことから、遺産分割は成立しているものの、単に対象不動産のみ登記手続に漏れがあったのではないか、と考えられるものでした。

5 修習生の二回試験(修習最後の試験)も近いので、司法研修所における民事弁護修習の範囲の基本的な質問も織り交ぜて講義をしてみました。応用的な設問では、及第点を与えられない解答もありました。起案の失敗を小問で救う(二回試験においても及第点獲得のための救済的設問が出されている。)という意味で出した追加設問でしたが、課題の検討が不十分(起案ができなかった)な場合には、追加設問(救済小問)も答えが出せないようでしたので、二回試験に向けて気を引き締めて修習に取り組んで欲しいと思います。

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